Japan Medical Bridge

慢性硬膜下血腫 — 手術で改善が見込める、認知症のような症状

数時間〜1〜2日で急に悪化 — 直ちにお住まいの地域の救急番号に連絡を

  • 進行する片側の脱力・麻痺 — 片方の顔のだらつきが強まる、腕や脚に力が入らない
  • 急な意識レベルの低下 — 起こしにくい、強い眠気、以前よりずっと混乱している
  • 繰り返す嘔吐、あるいは新規のけいれん
  • 歩行の急速な悪化、突然立てない・歩けない — あるいは突然の激しい頭痛

この病気の「2つの速さ」について詳しく →

検索しているのはご本人ではなく、あなた——高齢の親御さんが数週間のうちにぼんやりし始め、足を引きずり、「急に老け込んだ」。CT を撮ったら慢性硬膜下血腫と言われた。そんな状況ではないでしょうか。最初にいちばん大事な事実をお伝えします。高齢の方をこのように変えてしまう病気の中で、慢性硬膜下血腫は治療で改善が見込める部類に入ります。標準的な治療は穿頭術(せんとうじゅつ)——局所麻酔でできる小さなドレナージ手術で、数日のうちに見違えるほど回復する方が少なくありません。認知症に見えた症状が血腫を抜くと晴れることから、「治せる認知症(様症状)」と呼ばれることもあるほどです。約1割は再発して再度の穿頭術が必要になり、数時間〜1〜2日で急に悪化する場合は救急として——いつがそれかは上の枠が教えてくれます。

慢性硬膜下血腫とは

脳とそれを包む硬い膜(硬膜)のすき間に、古くなって液状化した血液がゆっくりたまる病気です。「慢性」とは、数週間かけてゆっくりできたという意味で、大きな頭部外傷の直後に生じる急性硬膜下血腫とは、この点で区別されます。

きっかけは数週間〜数か月前のささいな頭部打撲——鴨居に頭をぶつけた、軽く転んだ——であることが多く、ご本人が覚えていないことも珍しくありません。年齢とともに脳はわずかに縮み、脳表面の細い静脈(架橋静脈)が引き伸ばされるため、ごく軽い衝撃でもじわじわとした出血が始まり、数週間かけて育っていきます。だからこそ、これは何より高齢者の病気であり、はじめは「ただの老化」や認知症と間違えられやすいのです。

症状 — ゆっくり進み、「年のせい」と間違えやすい

液が数週間かけて少しずつたまるので、症状も「ある日突然」ではなく忍び寄ります。だからこそ「ただ年をとっただけ」と受け取られやすいのです。ドラマチックな瞬間はふつうありません。よくみられるのは次のようなものです。

ここで大切なことが2つ。第一に、どの症状が出るかは、血腫がどの部位を、どちら側(片側とは限らず両側のことも)から圧迫しているかで変わります。第二に、このページ全体でいちばん伝えたい区別——「進む速さ」が手がかりになります。高齢の方が数年ではなく数週間で変化していくパターンは、画像検査を考えるべきサインの一つです。この病気の可能性があり、そしてこの病気は手術で改善が見込めるからです。一方、数時間〜1〜2日で急に悪化する場合は、より緊急性の高い別の状況です(後述のすぐに受診すべき症状を参照)。

原因とリスク要因

できかたはゆっくりです。脳の表面では細い架橋静脈がわずかに傷ついてにじみます。加齢で脳が少し縮んでいると、液がたまる空間が広く、静脈も引き伸ばされているため、軽い衝撃でも出血が始まりやすくなります。さらに、血腫の周りにできる膜には、それ自体もろく漏れやすい血管があり、これも数週間かけての増大に関わります。リスク要因は、医学的に対処しうるものと、体質・背景に当たるものとに分けて眺めると見通しがよくなります。

医学的・対処しうる要因:

体質・背景(変えにくい):

大切なのは、これらは「あれば必ず増大する・手術になる」というものではなく、なりやすさをわずかに左右するにすぎないということです。ご本人にどれが当てはまり、それをどう受け止めるかは、画像を見られる主治医と一緒にほどいていくのがふつうです。

検査と診断 — 何で、何がわかるか

診断はふつう、すばやく、はっきりつきます。

検査そのものは答えを直接くれるので、いちばん難しいのは画像ではなく「撮ると決めること」です。だからこそ「高齢の方が数週間で変化した」というパターンを、様子見で流さないことが大切になります。

日本では、どう治療するのが一般的か

冠状断で見た慢性硬膜下血腫と穿頭ドレナージの模式図 頭部を前から見た断面。頭蓋骨と脳のあいだの片側に、古い血液が三日月状にたまり、脳を圧迫して正中を反対側へ押しやっている。頭蓋骨に開けた小さな穴(穿頭孔)から、ドレーンが血腫に達して排出する。 慢性硬膜下血腫 穿頭ドレナージ 頭蓋骨
前から見た断面。慢性硬膜下血腫は、頭蓋骨と脳のあいだにたまった古い血液の三日月状のかたまりで、脳を圧迫して正中(中央の線)を押しやります。一般的な治療は、頭蓋骨に開けた小さな穴(穿頭孔)から血腫を排出する方法です。作図: Japan Medical Bridge.

世界有数の高齢社会である日本は、この病気を非常に多く診ています。全国規模の診療データベースを解析した研究では6万3千例超が分析されており、慢性硬膜下血腫のドレナージは日本の脳神経外科で最も件数の多い手術の一つです。一般的な流れはこうです。

正直な話: 約1割は再発します

穿頭術はよく効きますが、おおよそ1割(報告により5〜20%)の方で液が再びたまります。多くは術後数か月以内です。再発しても、早く見つかれば再度の穿頭術で対応できることがほとんどで、だからこそ術後のフォローの CT が大切になります。

そしてこの数年、この分野は本当に動きました。血腫の膜に栄養を送る細い動脈をカテーテルで詰める中硬膜動脈塞栓術です。New England Journal of Medicine に掲載された2つのランダム化比較試験——EMBOLISE(2024年)と STEM(2025年)——は、初回手術への上乗せ(再発した血腫の治療ではなく)を検証し、その後の再手術率を下げることを示しました。EMBOLISE では約11%から約4%へ低下し、STEM も同じ方向、それ以前の系統的レビューも同様でした。一方、すでに再発した血腫や、再発リスクの高い血腫に塞栓術を使うことは、実地では別の使われ方として広がりつつありますが、適応をどこまで広げるかはまだ議論の途中です。まだどこでも受けられる治療ではなく、日本でも同様です。

経過と見通し(予後)

多くの方にとって、これは脳神経外科の中でも希望の持てる話です。症状のある血腫を抜いたあと、数日のうちに見違えるほど良くなる方が少なくありません——足取りが安定し、頭がはっきりし、元の状態に近く戻る方も多くいます。ここで正直にお伝えしたい注意点が2つあります。

超高齢の方では回復がゆっくりのこともあり、歩けるようになるまでリハビリの期間が必要な場合もあります。個々の見通しは、年齢・全身状態・症状が続いた期間・どこまでが血腫のせいだったかによって変わり、経過を診ている主治医が最もよく判断できます。

回復期・経過観察中の日常生活

状況は大きく2つです。小さな血腫を手術せず経過観察している場合、生活はおおむね続けられますが、2つに気を配ります——これ以上頭を打たないこと(この年代では転倒が最大の敵です)と、血液サラサラの薬を処方医と見直すことです。手術を受けた場合は、多くの方が数日で起きて歩けるようになり、ふつうの活動は主治医の指示に沿って少しずつ戻します。

とくに転倒予防は大切です。きっかけも再発も「頭を打つこと」が関わることが多いため、家の中を安全にすること——明るさ、つまずくものを減らす、手すり、ふらつきの出る薬の見直し——は、家族が直接手を打てる数少ない対策の一つです。多量の飲酒を控えることは、リスクを高める点でも転倒につながる点でも意味があります。運転・仕事・運動の具体的な制限は、回復の程度によって変わるので、主治医と相談して決めます。

すぐに受診すべき症状

ここは、迷ったときに立ち返る場所です。慢性硬膜下血腫には「2つの速さ」があり、それぞれ対応が違います。

数時間〜1〜2日で悪化 — 救急として対応してください。血腫があるとわかっている(または疑われる)高齢の方に、次のいずれかが急に現れたら、このページを閉じて、その日のうちに——お住まいの救急番号に連絡するか、救急外来へ。血腫が大きくなり、脳を危険に圧迫しているサインでありうるからです。

数週間かけての、認知症のような緩徐な変化 — 早めに受診を(何か月も放置しない)。より多いのは、静かで年のせいと片づけられやすい現れ方です。数週間かけて進む、もの忘れ・無気力・軽いふらつき・続く鈍い頭痛など。これは救急車を呼ぶ状況ではありませんが、何か月も様子見で流してよいものでもありません。早めに受診してください。頭部 CT ですぐに白黒がつき、もし血腫なら手術で改善が見込めるからです。

どちらの速さなのか迷うときは、待つより診てもらうほうが安全です。

この決断の、正直な構図

多くの脳の手術と違って、この病気では天秤の傾きが逆です。手術そのものは小さく、症状のある血腫を放っておくこと——弱った脳が圧迫され続けること——のほうが、たいてい大きなリスクになります。そのうえで、ご家族に知っておいてほしい正直な注意点が3つあります。第一に、すべての症状が戻るとは限りません。変化の一部がもともとの認知症や過去の脳梗塞によるものなら、血腫を抜いて改善するのは血腫が起こしていた部分だけです。第二に、抗血栓薬は両刃の剣です。手術前後は中止が一般的ですが、この薬は心臓や脳梗塞予防のために飲んでいることが多く、再開時期は医師同士の本物の判断のしどころです。第三に、再発は珍しくなく、1回の手術で終わらないことがあります。それでも結論は変わりません——これは脳神経外科で最も「手術のしがいのある」病気の一つです。ただ、全体の形を知っているご家族ほど、良い決断ができます。

主治医に持ち帰るとよい質問

持ち帰りリスト
  1. 血腫の大きさは?片側ですか、両側ですか?今の症状は血腫で説明がつきますか?
  2. 今すぐ手術を勧めますか、それとも CT で経過を見ますか?どんな変化があれば方針が変わりますか?
  3. 麻酔は局所ですか、全身ですか?入院はどのくらいを見込みますか?
  4. 飲んでいる血液サラサラの薬はいつ止めて、いつ・誰の判断で再開しますか?
  5. 再発した場合の方針は?再手術に加えて、中硬膜動脈塞栓術はこの病院で選択肢になりますか?
  6. ぼんやりやふらつきは、現実的にどこまで戻ると見込んでいますか?

よくある質問

親の物忘れやぼんやりは、認知症ではなく慢性硬膜下血腫の可能性がありますか?
可能性はあります。高齢の方が数年ではなく数週間の単位で急に変化した場合、医師が頭部CTを勧めるのはまさにこのためです。慢性硬膜下血腫は、もの忘れ・ぼんやり・歩行のふらつきなど認知症とよく似た症状を出しますが、多くの認知症と違い、手術で改善が見込める病気です。区別は画像検査でしかつかないので、早めの受診が第一歩です。
すぐに救急を受診すべき警告サインは何ですか?
慢性硬膜下血腫はふつうゆっくり進みますが、数時間〜1〜2日での急な悪化は危険なサインです。高齢の方に、進行する片側の脱力・麻痺、急に強い眠気で起こしにくい、繰り返す嘔吐、新規のけいれん、急に立てない・歩けない、といった変化が出たら、その日のうちに救急を受診してください。血腫の増大を示すことがあります。数週間かけての認知症のような緩徐な変化は緊急ではありませんが、何か月も待たず早めの受診を。
80代・90代でも穿頭術は受けられますか?
一般的には、脳神経外科の手術の中でも体への負担が小さい部類です。頭皮を数センチ切開して頭蓋骨に小さな穴を開け、たまった液を洗い流す手術で、局所麻酔(+軽い鎮静)で行われることが多く、通常1時間以内に終わります。年齢だけで不可能になることはまれで、症状があれば90代の方にも行われます。ただし個々のリスクは持病やお薬によって変わるため、最終的な判断は主治医との相談になります。
手術後に再発することはありますか?
あります。おおよそ1割(報告により5〜20%)の方で液が再びたまり、多くは術後数か月以内です。再発時は再度の穿頭術で対応するのが基本です。これとは別に、血腫に栄養を送る血管を詰めるカテーテル治療(中硬膜動脈塞栓術)が登場しました。ランダム化比較試験(EMBOLISE・STEM)は、これを初回手術に上乗せするとその後の再手術率が下がることを示し、EMBOLISE では約11%から約4%でした。すでに再発した血腫や高リスクの血腫に使うことも選択肢になりつつありますが、適応をどこまで広げるかは議論の途中です。実施できる施設はまだ限られます。
血液をサラサラにする薬を飲んでいます。どうなりますか?
抗凝固薬・抗血小板薬(いわゆる血液サラサラの薬)は慢性硬膜下血腫の大きな危険因子で、手術の前後は一時中止するのが一般的です。難しいのは再開のタイミングで、これらの薬は心臓や脳梗塞の予防のために処方されていることが多いためです。一律の正解はなく、脳神経外科医と処方医が症例ごとに相談して決めます。家族が確認しておくべき、最も大切な質問の一つです。
家族の状況について、オンラインで脳神経外科医に相談できますか?
はい。Japan Medical Bridge では、脳神経外科医との1対1のビデオ相談を行っています。内容は「このような状況で日本では一般的にどう考えるか」という一般的な情報提供であり、診断や個別の医療アドバイスではありません。治療の決定は、ご本人・ご家族と主治医のもとにあります。

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親御さんのことでこの状況に向き合っているなら——手術を受けるべきか、麻酔や薬が心配か、あるいは再発してしまったのか——時間に追われないビデオ相談が、「何が一般的で、何が選択肢で、主治医に何を聞けばよいか」を整理するお手伝いをします。海外に暮らしていて、日本にいるご家族の治療が遠くて見えない、という方のご相談もお受けしています。お相手は私自身で、2回目以降のご相談も同じ外科医がお受けします。

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畠中駿輔(脳神経外科医・大阪)
畠中駿輔 脳神経外科医(大阪)。術者・助手として脳神経外科手術 約1,200例、脳血管撮影・血管内治療(カテーテル)約500例。USMLE Step 1–3 合格。 医師についてもっと見る →

出典

  1. Davies JM, Knopman J, Mokin M, et al.(EMBOLISE Investigators). Adjunctive Middle Meningeal Artery Embolization for Subdural Hematoma. New England Journal of Medicine. 2024;391(20):1890–1900.
  2. Fiorella D, Monteith SJ, Hanel R, et al.(STEM Investigators). Embolization of the Middle Meningeal Artery for Chronic Subdural Hematoma. New England Journal of Medicine. 2025;392(9):855–864.
  3. Srivatsan A, Mohanty A, Nascimento FA, et al. Middle Meningeal Artery Embolization for Chronic Subdural Hematoma: Meta-Analysis and Systematic Review. World Neurosurgery. 2019;122:613–619.
  4. Katayama K, et al. The Effect of Goreisan on the Prevention of Chronic Subdural Hematoma Recurrence: Multi-Center Randomized Controlled Study. Journal of Neurotrauma. 2018;35(13):1537–1542.
  5. Toi H, et al. Present epidemiology of chronic subdural hematoma in Japan: analysis of 63,358 cases recorded in a national administrative database. Journal of Neurosurgery. 2018;128(1):222–228.

このページは、慢性硬膜下血腫が日本の脳神経外科でおおむねどう考えられているかを、ありのままに紹介する一般的な医学情報です。使いどころはひとつ——ご家族の診断や治療方針を決めるのは、この文章ではなく、画像を見られる主治医とご本人・ご家族です。読んでも医師・患者の関係は生じず、実際の診療は施設や症例によって異なります。高齢の方が急に起こしにくくなる、片側の脱力が強まる、繰り返し嘔吐する、けいれんを起こす、急に歩けなくなるといったときは、読むのをやめて、直ちにお住まいの地域の救急に連絡してください。