もやもや病 — バイパス手術と、それが必要になるとき
緊急のサイン — 直ちにお住まいの地域の救急番号に連絡を
- 突然の片側の手足・顔のまひやしびれ
- 突然、言葉が出ない・理解できない、あるいは顔がゆがむ
- これまでにない、突然の激しい頭痛
- けいれん、あるいは急に意識がもうろうとする・気を失う
もやもや病は、世界中どこへ行っても日本語の名前で呼ばれる、数少ない病気です。脳血管撮影で、細く危うい側副血行の網が「もやもや」と煙のように見えることから名付けられました。名前が日本語なのは偶然ではありません。この病気は日本で初めて記載・命名され、東アジアで際立って多く、そして日本が世界有数の治療経験を積み重ねてきた病気だからです。あなたやお子さんがもやもや病と診断されたなら、「日本ではどう考えるか」を知ることは回り道ではなく、この病気の教科書の多くが書かれた場所を覗くことに近いのです。そしてこの病気は突然の脳卒中を起こしうるため、最初に持ち帰っていただきたいのは、どの症状が「すぐ救急車を呼ぶ」サインか——だから、その章はこのページの前半に置いています。
もやもや病とは
もやもや病では、脳の底にある太い動脈——内頸動脈の終末部とその主要な枝——が、両側で何年もかけてゆっくり狭くなっていきます。脳はそれを補うために細い側副血管の網を育てます。それが「もやもや」です。問題は2つ。狭窄によって脳の一部が血流不足になり、一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞を起こすこと。そして、酷使された細い側副血管が破れて出血することです。小児は虚血症状が中心で、成人はどちらの型もあり、特に出血が問題になります。知っておきたいのは、これはコレステロールや喫煙による動脈硬化とは別の病気だということ——動脈の壁そのものに起きる独自の病気であり、だから予防の形も違ってきます。
症状 — そして、どれが緊急か
もやもや病は、脳を正反対の2つの形で傷つけます——血流不足(虚血)と、出血。そのため症状は、見過ごしやすい静かなものから、突然で命に関わるものまで幅があります。危険度を二段階に分けて整理すると分かりやすくなります。
「早めに受診したい」症状(すぐ検査の予約を。放置しない):
- くり返す頭痛 — よくみられ、小児では最初の、そして唯一の初期サインのこともあります。
- 記憶・集中力・学校や仕事での成績の緩やかな低下 — 慢性的な血流不足がじわじわ効いてくることがあります。
- ときどきの、わずかなしびれや手先の不器用さ — つい見過ごしがちなもの。
これらは緊急ではありませんが、「様子を見て待つ」より、脳神経内科・脳神経外科を受診して画像検査を受けるべき理由になります。
緊急の症状——手を止めて、直ちにお住まいの地域の救急番号に連絡を:
- 突然の手足・顔のまひやしびれ — 多くは片側に。
- 突然、言葉が出ない・理解できない、あるいは顔がゆがむ。
- これまでにない、突然の激しい頭痛 — 出血のサインでありうる。
- けいれん(発作)、あるいは急に意識がもうろうとする・反応が鈍い・気を失う。
- 小児では、激しく泣く・熱いものを吹き冷ます・激しい運動をきっかけに起きる、脱力・ろれつのまわらなさ・見えにくさ。これらはすべて過呼吸(呼吸のしすぎ)を起こし、血液中の二酸化炭素を下げ、脳の動脈を締めて、もともと血流の足りない脳を TIA に傾けます。
虚血発作でいちばん大切な点——脱力やろれつのまわらなさが数分でおさまっても(TIA)、緊急かつ警告として扱ってください。もやもや病の TIA は、本格的な脳梗塞の前触れでありうるからです。「次の外来で伝えよう」ではなく、その日のうちの救急評価に値します。迷うときは、待つより連絡するほうが安全です。
原因とリスク要因
もやもや病で動脈が「なぜ狭くなるのか」はまだ完全には解明されていませんが、これは動脈の壁そのものに起きる過程であり、食事・喫煙・コレステロールが原因の、ふつうの動脈硬化とは違います。つまりリスク要因は「あなたがしたこと」というより、多くが持って生まれた背景です。体質として決まっているものと、実際に手を打てる少数の誘因とを、いったん別々に並べてみると見通しがよくなります。
背景の要因(変えられない):
- 人種・地域 — 東アジア(日本・韓国・中国)の人々で、欧米より際立って多い病気です。
- RNF213 遺伝子 — 日本の研究グループが同定した感受性遺伝子で、東アジアに多い特定の変異はもやもや病になりやすさを高めます。ただし、変異を持つ人の大多数は発症しません。
- 家族歴 — 日本の患者さんの約10〜15%に、血縁者の発症があります。
- 年齢 — 発症には2つの山があり、小児期(多くは5〜10歳ごろ)と、成人期(多くは30〜40代)です。
- 女性 — 全体として女性にやや多いとされます。
- 関連する病気(「もやもや症候群」) — 同じ「もやもや」の像が、ダウン症候群・鎌状赤血球症・頭部への放射線治療の既往・甲状腺(バセドウ)病・神経線維腫症1型などに伴って現れることがあります。本来の「もやもや病」と、二次的な「もやもや症候群」を見分けることは、管理が変わりうるため大切です。
手を打てる誘因(病気そのものではなく、症状を減らすために):
- 脱水 — 血液が濃く量が減ると虚血の引き金になりえます。こまめな水分補給が大切です。
- 過呼吸(特に小児) — 激しく泣く・熱いものを吹き冷ます・息を激しく吐く・呼吸が速くなる動作は虚血発作を招きうるため、理解しておく価値があります。
- 血圧 — 出血リスクを下げ、血流を安定させるためにも、管理する意味があります。
背景の要因はどれも「あれば必ず発症する」というものではなく、なりやすさをわずかに左右するにすぎません。あなたにどれが当てはまり、それをどう受け止めるかは、検査結果を見られる主治医と一緒にほどいていくのがふつうです。
検査と診断 — 何で、何がわかるか
検査は、狭窄を見つけて診断を確定するもの、脳にまだ血流の「予備能」が残っているかを測るものなど、役割が段階的に分かれます。それぞれ、わかることと体への負担が違います。
- MRI・MRA(MR血管撮影) — 負担の少ない主力です。MRA は造影剤も放射線も使わず脳の血管を写し、内頸動脈終末部の狭窄ともやもや血管を描き出します。MRI は脳梗塞や出血の有無を示します。日本では、典型的な両側例なら、カテーテル検査なしに MRI/MRA だけで診断できる国の診断基準があります。
- カテーテル脳血管撮影(DSA) — 脚の付け根や手首からカテーテルを入れ、造影剤を流して最も細かく血管を描き出します。もやもや血管や側副血行の地図を最も精密に得られ、手術の計画や鈴木分類の判定によく使われます。検査の中では体への負担がもっとも大きいものです。
- 脳血流(血行動態)検査 — SPECT や MR/CT の灌流画像で、しばしばアセタゾラミド(ダイアモックス)負荷を加え、脳の血管に「広がってください」と促します。これで脳循環予備能——脳にまだ余力があるか、もう限界で動いているか——を測ります。手術が役立ちそうかを判断する中心になる検査です。
診察で、病気の進み具合を鈴木分類(I〜VI期)という日本発の病期分類で説明されることがあります。初期の狭窄から、もやもや血管が最も目立つ時期を経て、脳が外側の血管を使い始めてもやもや血管がやがて減っていくまでを段階で表すものです。どの検査を、どの順で行うかは、あなたの状況を見て主治医チームが決めます。
日本の経験が厚い理由
- 病気そのものが日本で定義された。1960年代に鈴木二郎らが血管撮影所見を記載・命名し、いまも世界中で使われる病期分類(鈴木分類)も日本発です。
- 症例数。欧米よりはるかに患者数が多く、日本の施設はこの病気を「まれに見る」のではなく「日常的に診て、手術して」います。
- 国の枠組み。指定難病として登録制度・研究班・定期改訂される診断治療ガイドラインがあります。
- 科学的貢献。感受性遺伝子 RNF213 は日本の研究グループが同定し、出血型成人へのバイパスの効果を示したランダム化試験(JAM Trial)も日本で行われました。
治療はどう考えるのが一般的か
狭窄そのものを戻す薬はありません。治療の中心は脳を守ることで、その主役が血行再建術(バイパス手術)——血流の足りない脳に新しい血の道をつくる手術です。代表的な直接手術である STA-MCA バイパスは、頭皮の動脈を脳表の動脈へつなぎ替えます:
- 直接バイパス(代表は STA-MCA 吻合): 顕微鏡下で頭皮の動脈(浅側頭動脈)を脳表の動脈につなぎます。血流はその場で増えます。血管の径は1mm前後——日本の施設が特に鍛えられてきた領域です。
- 間接バイパス(EDAS など): 血管のついた組織を脳の表面に敷き、数か月かけて新しい血管が生え込むのを待ちます。小児で特によく効きます。
- 複合手術: 成人では直接+間接を同時に行う施設が日本には多くあります。即効性と長期的な生え込みの両取りです。
手術が検討されるのは、症状がある(TIA・脳梗塞・出血)場合や、脳血流検査で血流の予備能低下が示された場合が中心です。出血型の成人では、これまでで唯一のランダム化試験である JAM Trial が、再出血を減らす目的での直接バイパスを支持しています。無症状・軽症では画像での経過観察もあり、虚血型では抗血小板薬などの内科的管理、そして血圧・水分の管理、小児では過呼吸の誘因(激しく泣く・吹き冷ます等)を避ける生活指導も柱になります。バイパスは「戻す」ではなく「守る・予防する」手術で、手術自体にもリスクがあるため、適応は症例ごとに慎重に検討されます。
経過と見通し(予後)
「これからどうなるのか」は、病型・病期・脳がどれだけ予備能を失っているか・年齢によって大きく変わります。一般論として、代表的な流れを挙げます。
- 症状があるまま無治療だと、進行しやすい — 狭窄が進み、さらなる TIA や脳梗塞のリスクが続きます。血行再建は、この自然経過を変えることを目指します。
- 虚血型に対する血行再建後 — 血流を取り戻して将来の脳梗塞リスクを下げるのが目的です。間接バイパスは新しい血管が育つまで数か月かかり、直接バイパスはその場で血流を足します。
- 出血型の成人 — JAM Trial では、直接バイパスが内科的管理のみに比べて再出血の頻度を下げたと示されました。日本でこの型に直接バイパスがよく選ばれる理由の一つです。
- 手術がうまくいった後も、フォローは続きます。反対側で病気が進むことがあり、小児は成長に合わせて診続ける必要があり、画像(MRA・灌流、ときに DSA)でバイパスの働きを確認します。
ここで触れた数字はあくまで全体としての傾向で、あなた一人の行く末を示すものではありません。あなたの病型・病期・血流の予備能をふまえた見通しは、経過を追う主治医チームがいちばん的確に語れます。
日常生活で気をつけること
もやもや病の多くの方は——とくにバイパスがうまくいったあとは——学校でも仕事でも、その先でも、充実した生活を送っています。役に立つ習慣はいくつかあり、それらはこの病気の性質から素直に導かれます。
- こまめに水分をとる。脱水は虚血の引き金になりうるため、暑い時期や体調不良のときは特に気を配りましょう。
- 過呼吸の誘因を理解する(特に小児)。激しく泣く・熱いものを吹き冷ます・管楽器や風船をふくらます・非常に激しい運動は虚血発作を招きうるものです。これは「気づいておく」ことであって、お子さんを過度に囲い込むことではありません。
- 血圧を管理する — 血圧が安定すると血流も安定します。
- 薬は指示どおりに。虚血型では抗血小板薬がよく使われますが、もやもや病は出血もしうるため、使うかどうか・どう使うかは主治医の判断になります。
- 運動は基本的に勧められますが、あなたに合う強度、息をこらえる・高強度の運動をどう扱うかは、主治医と相談して決める価値があります。
- 妊娠・出産は、計画のもとで管理できることが多いです。産科と脳神経外科が連携して備えます。該当する場合は早めに相談を。
あなたの具体的な運動・スポーツ・仕事について、どこで線を引くかは、あなたの病気を知る主治医と決めるのが確実です。日々の楽しみを過剰に手放さずにいることもまた、もやもや病と長く付き合っていくうえで大きな意味を持ちます。
すぐに受診すべき症状
ここは、迷ったときに立ち返る場所です。もやもや病は脳梗塞も脳出血も起こしうるため、どちらも一刻を争います。突然の脳卒中サイン——片側のまひ、言葉の障害、これまでにない突然の激しい頭痛、けいれん、意識がもうろうとする——が現れたら、このページを閉じて、直ちにお住まいの地域の救急番号に連絡してください。小児では、突然の脱力・ろれつのまわらなさ・見えにくさは、数分でおさまっても同じ扱いです。覚えておきたい目安——突然始まって顔・腕・言葉のいずれかに関わる症状は、否定されるまでは脳卒中と考える。おさまった TIA は「もう大丈夫」ではなく「警告」です。迷ったら、連絡を。
この決断の、正直な構図
もやもや病のバイパスは「予防の手術」です。すでに起きた障害を戻すことはできず、手術自体にもリスクがあります——守るはずの脳梗塞が周術期に起こりうること、そして血流が急に増えすぎる過灌流症候群。経験豊富なチームはこれらを前提に周術期管理を組み立てます。だから、いちばん大事な質問は2つです。私の血流検査は、本当に脳が追い込まれていることを示しているか? そして執刀チームはこの手術にどれだけ習熟しているか? この病気は、手術の腕だけでなく、麻酔と術後管理まで含めた「チームの経験値」が結果を左右します。
主治医に持ち帰るとよい質問
- 私の診断は「もやもや病」ですか、他の病気に伴う「もやもや症候群」ですか?(管理が変わりえます)
- 脳血流検査(SPECT/灌流画像)の結果は?予備能はどちら側で、どの程度落ちていますか?
- 私は虚血型ですか、出血型ですか?それは手術の判断をどう変えますか?
- 手術するなら直接・間接・複合のどれで、私の年齢・血管でその選択になる理由は?
- このチームのもやもや病血行再建の経験数は?術後の過灌流はどう監視しますか?
- (女性の場合)妊娠・出産はどう管理しますか?
よくある質問
- もやもや病は、全員手術が必要ですか?
- いいえ。手術(血行再建=バイパス)が検討されるのは、TIA や脳梗塞・出血などの症状がある場合や、脳血流検査で血流の予備能が落ちていると示された場合が中心です。軽症・無症状の方は画像で経過観察となることもあります。判断は個別です。
- 直接バイパスと間接バイパスはどう違いますか?
- 直接バイパス(代表は STA-MCA 吻合)は、頭皮の動脈を脳表の動脈に顕微鏡下でつなぎ、すぐに血流を増やします。間接バイパス(EDAS など)は血管付きの組織を脳表に敷き、数か月かけて新しい血管が生えるのを待ちます。両方を同時に行う複合手術もあります。小児は間接が特に有効で、成人は直接または複合が選ばれることが多い——年齢と血管の状態で決まります。
- もやもや病の脳卒中の警告サインは何ですか?
- もやもや病は脳梗塞(虚血)と脳出血の両方を起こしうるため、突然の片側の手足・顔のまひやしびれ、突然の言葉の障害(話せない・理解できない)、これまでにない突然の激しい頭痛、けいれん、意識がもうろうとする——これらが起きたら、ためらわず直ちに救急に連絡してください。小児では、激しく泣く・熱いものを吹き冷ます・激しい運動など過呼吸を誘因とする一過性の脱力・ろれつのまわらなさ・見えにくさは TIA(一過性脳虚血発作)の警告で、数分でおさまっても救急扱いにしてください。慢性の頭痛や、記憶・集中の緩やかな変化は、緊急ではありませんが早めの受診が望まれます。
- なぜ日本はもやもや病の治療経験が豊富なのですか?
- この病気は日本で初めて記載・命名され(「もやもや」は脳血管撮影での側副血行の見え方から)、東アジアで際立って多い病気です。日本では指定難病として登録・研究体制があり、感受性遺伝子 RNF213 も日本の研究グループが同定、出血型に対するバイパスの効果を示したランダム化試験(JAM Trial)も日本で行われました。
- もやもや病は遺伝しますか?
- 多くは孤発性ですが、日本の患者さんの約10〜15%に家族歴があり、RNF213 遺伝子の変異が感受性を高めることが知られています。家族歴があれば主治医に伝えてください。ご家族の検査をするかどうかは個別に判断されます。
- オンラインで日本の脳神経外科医に相談できますか?
- はい。Japan Medical Bridge では、もやもや病を日本でどう評価し治療するのが一般的か、という点について、日本の脳神経外科医と1対1のビデオ相談ができます。お渡しするのはあくまで一般的な情報で、診断や医療上の助言ではありません。あなた自身の治療方針は、あなたと主治医のあいだで決まります。
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相談を申し込む →出典
- Suzuki J, Takaku A. Cerebrovascular "moyamoya" disease: disease showing abnormal net-like vessels in base of brain. Archives of Neurology. 1969;20:288–299.
- Miyamoto S, et al.(JAM Trial 研究班). Effects of Extracranial–Intracranial Bypass for Patients With Hemorrhagic Moyamoya Disease. Stroke. 2014;45:1415–1421.
- 厚生労働省 もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)研究班『もやもや病診断・治療ガイドライン』(2021年改訂).
- Kamada F, et al. A genome-wide association study identifies RNF213 as the first Moyamoya disease gene. Journal of Human Genetics. 2011;56:34–40.
- Scott RM, Smith ER. Moyamoya Disease and Moyamoya Syndrome. New England Journal of Medicine. 2009;360:1226–1237.
- Kuroda S, Houkin K. Moyamoya disease: current concepts and future perspectives. Lancet Neurology. 2008;7:1056–1066.
このページは、もやもや病が日本の脳神経外科でおおむねどう考えられているかを、ありのままにお伝えする一般的な医学情報です。使いどころはひとつだけ——あなた自身の診断や治療方針を決めるのは、この文章ではなく、検査結果や脳血流を見られる主治医とあなたです。読んでも医師・患者の関係は生まれず、実際の診療は施設や症例によって異なります。突然の片麻痺・言葉の障害・激しい頭痛・けいれんなどが起きたときは、読むのをやめて、直ちにお住まいの地域の救急に連絡してください。