Japan Medical Bridge

脳動静脈奇形(AVM)— 治療の選択肢を正しく知る

緊急のサイン — 直ちにお住まいの地域の救急番号に連絡を

  • 突然の、これまでで最悪の激しい頭痛(「バットで殴られたような」)
  • けいれん発作、とくに初めての発作
  • 突然の片側の手足・顔のまひやしびれ、あるいは突然の言葉の出にくさ
  • 突然の視力低下、あるいは意識がもうろうとする・気を失う

出血の警告サインの詳しい説明はこちら →

検査で脳動静脈奇形(AVM)が見つかり、しかもまだ破裂していない——いま、深夜に「未破裂AVMの治療」について調べ、明日にでも手術が要るのかと不安になっているかもしれません。だから最初に、いちばん落ち着ける事実からお伝えします。未破裂のAVMは、その週のうちに手術を要する緊急事態であることはまずありません。そして多くの場合、いちばん安全な選択は「治療」ではなく「慎重に見ていくこと」であるケースも少なくありません。いま必要なのはスピードではありません。「放っておくリスク」と「取り除く治療のリスク」を、あなたの人生の長さで比べることです。

脳動静脈奇形(AVM)とは

ふつう、血液は動脈から毛細血管の細かい網を通り、勢いを落としてから静脈へ流れます。AVMは、その毛細血管を挟まずに動脈と静脈が直接つながった「もつれ」です。高い圧の動脈血が、それに耐える造りではない血管にそのまま流れ込みます。このもつれ(ナイダス)はもろく、出血することがあります。脳動脈瘤と違い、AVMは多くが生まれつきのもので、若い人に見つかりやすいのが特徴です。けいれん発作や頭痛、あるいは偶然の検査をきっかけに、20〜40歳で診断されることが多くあります。この「若さ」は脇役ではありません。あとで見るように、意思決定のまさに中心にあります。

症状 — 「無症状」から「突然の出血」まで

AVMは、まったく無症状のこともあれば、劇的に姿を現すこともあります。おおまかに、見つかり方は4通りあり、それぞれ緊急度がまったく違うので、分けて知っておく価値があります。

いちばん大事な軸はこれです。すでに分かっている未破裂のAVMを見ていくのは、落ち着いて計画してよい「通常受診」の状況です。一方、出血を疑う突然の症状はその正反対で、直ちに救急です。このガイドの大半は前者(落ち着いた状況)の話で、後者(緊急)は末尾に専用の章を設けています。

原因とリスク要因

動脈瘤と違い、脳のAVMは多くの場合生まれつきのもので、生活のしかたで後から作られたものではありません。生まれる前、脳の血管ができていく途中に形づくられます。つまり、食事や運動といったおなじみの生活要因が原因ではなく、あなたが何かをしたから生じた、というものではありません。

知っておくとよい点を挙げます。

原因の多くが「変えられない」ものである以上、役に立つ問いは「どう予防するか」ではなく、「すでに持っている以上、そのリスクをどう管理するのがよいか」です——それがこのガイドの主題であり、検査結果を見られる主治医と相談すべきことです。

検査と診断 — 何で、何がわかるか

AVMの診断と「地図づくり」には、たいてい複数の種類の検査が必要です。それぞれ答える問いが違い、動脈瘤と同じく、体への負担も異なります。

どの検査から入り、どこまで進めるかは、あなたのAVMの現れ方をみて主治医が組み立てます。ただしAVMでは、治療方針を決める前の詳しい評価に、カテーテル脳血管撮影がほぼ必ず含まれます。

出血リスクと、年齢がすべてを変える理由

未破裂AVMの出血リスクは、おおむね年2%ほど(AVMの自然経過に関する大規模なメタ分析の一つでは約2.2%)とされます。個々のAVMによって上下し、深部の位置・深部静脈への排出があると高くなりやすく、一度でも出血したことのあるAVMは年あたりのリスクが明らかに高くなります(同じ分析で約4.5%)。1年ぶんだと小さく聞こえます。問題は掛け算です。リスクは、AVMを抱えている年ごとに繰り返されます。この先何十年もある30歳にとって、低い年率でも積み重なれば、生涯の出血確率は決して小さくありません。AVMは若くして見つかることが多いぶん、リスクを積み上げる年数が長くなりがちです。だからこそ、70歳には危険すぎる治療が、同じAVMでも30歳には理にかなう、ということが起こります。年率は同じでも、残りの年数が違うのです。

ARUBA試験が変えたこと、変えなかったこと

この分野で最も重要な研究が ARUBA(未破裂脳動静脈奇形に関する無作為化試験)で、2014年に The Lancet に掲載されました。未破裂AVMの患者を「内科的管理のみ」と「治療介入(摘出術・定位放射線・塞栓術、またはその組み合わせ)」に無作為に振り分けたものです。約3年の追跡で、治療群のほうが脳卒中・死亡が多かったため途中で中止され、2020年に公表された長期追跡も同じ方向を示しました。素直に読めば、ARUBAは「慎重に」の強い根拠です。未破裂AVMを治療することが、自動的に安全な選択とは限りません。

ただし、あなたの判断のために、この試験の限界も正直に挙げておく必要があります。

だから、日本でも国際的にも標準的な読み方は「未破裂AVMは一切治療するな」ではありません。立証責任は治療の側にあり、若年者の低グレードAVMは根治を考える正当な理由が残り、高グレードのAVMは経過観察へ強く傾く——というのが実際です。

Spetzler-Martin分類 — 外科医は選択肢をこう組み立てる

AVMを取り除くリスクを見積もるとき、外科医は Spetzler-Martin分類を使います。次の3つを足し合わせます。

点数を合わせて I〜V のグレードになります。グレードI・II——小さく・浅く・重要でない脳にある——は一般に手術で取り除くリスクが低く、そういうAVMを持つ若い患者にとって、摘出による根治は理にかなう道です。グレードIV・V——大きく・深く・重要な脳にある——は手術リスクが高く、定位放射線や経過観察へ傾きます。同じ「AVMがある」でも、まったく違う助言になりうるのはこのためです。ラベルではなく、グレードが選択肢を決めます。

3つの治療手段 — 単独ではなく組み合わせるのが普通

脳AVMの構造:流入動脈・ナイダス・導出静脈 脳動静脈奇形の模式図。数本の太い流入動脈が中心のナイダス(異常血管の塊)に入り、正常な毛細血管を介さずに拡張した導出静脈へ直接血液が流れる。矢印は動脈からナイダスを経て静脈へ向かう血流を示す。 流入動脈(栄養血管) ナイダス(血管の塊) 導出静脈
脳動静脈奇形(AVM)の模式図。複数の太い流入動脈(栄養血管)(左)から高い圧の血液がそのままナイダス(異常な血管の塊)に流れ込み、通常なら血流を緩める毛細血管を介さずに、拡張した導出静脈(右)へと直接抜けていきます。この高圧の直接シャントが、AVMが出血しうる理由です。作図: Japan Medical Bridge.

「AVMの手術」というひとつの決まった術式があるわけではありません。手段は3つあり、それをどう組み合わせるかが外科医の技術の多くを占めます。

日本は3つすべてに厚い経験があり、主要な脳血管の施設ではいずれも実際に行えます。これは大事な点です。「どの治療が一番良いか」の正直な答えはAVMによって違うであり、それは解剖とグレードで決まってほしい——施設がたまたま得意な一つの手段で決まってほしくないのです。

経過と見通し(予後)

「これからどうなるのか」は、選んだ道と、AVMのグレードに大きく左右されます。ここでは一般論として、たどりやすい経過を並べてみます。

ここに挙げた数字はどれも大勢を平均した値で、あなた一人の未来を言い当てるものではありません。あなたのAVMのグレード・選んだ治療・体の状態を踏まえた見通しは、経過を追っている主治医がいちばん確かに描けます。

経過観察しながらの日常生活

AVMを治療せず見ていくことになった方から自然に出る質問が「ふだんの生活をどれだけあきらめないといけないのか」です。一般論としては、恐れているほどではないことが多いです。よく話題になる点を挙げます。

「頭の中に既知のリスクを抱えて生きる」こと自体がひとつの仕事です。やりたいことを不必要にあきらめてしまわないことも、長い経過観察を息切れせず続けるコツのひとつです。

すぐに受診すべき症状

ここまでは落ち着いた状況——分かっているAVMを、主治医と計画しながら見ていく話でした。この章はその正反対です。次のいずれかが突然起きたら、このページを閉じて、直ちに救急(お住まいの地域の救急番号)に連絡してください。AVMを持つ人では、これらは出血(破裂)や脳卒中のサインでありうる、一刻を争う事態です。

これは、すでに分かっている未破裂AVMを経過観察していることとは別ものです。後者は通常受診(定期フォロー)の話で、緊急ではありません。しかし上に挙げた突然の症状は、様子を見て待つ種類のものではありません。迷う時間があるなら、その時間で救急に電話するほうが安全です。

この決断の、正直な構図

未破裂AVMの治療は「予防」です。放っておけば毎年繰り返す出血リスクを消すために、いま現実の手術リスクを引き受ける。ARUBAは、その取引がしばしば割に合わないことを示しました——特に、手術が危険で経過観察も十分に正当化できる高グレードのAVMでは。ですがそれは一律の判決ではありません。1回の手術で治せる30歳の低グレードAVMは、重要な脳にあるグレードIVのAVMとはまるで別の方程式です。年齢、グレード、これまで出血したことがあるか、そして「頭の中に既知のリスクを抱えて生きる」ことをあなた自身がどう感じるか——そのすべてが会話に含まれるべきです。最後の点は、ぜひ主治医に言葉にして伝えてください。それは弱さではなく、決断の正当な材料です。

主治医に持ち帰るとよい質問

持ち帰りリスト
  1. 私のAVMのSpetzler-Martinグレードは?(大きさ・重要な脳にあるか・排出静脈)
  2. その条件で、私の年あたりの出血リスクはどのくらいで、生涯ではどこまで積み上がりますか?
  3. ARUBAを踏まえて、私の場合に治療(あるいは経過観察)を勧めるのはなぜですか?
  4. 治療する場合——摘出術・放射線・塞栓術のどの組み合わせで、この病院で私のようなAVMに対するその合併症リスクは?
  5. 放射線の場合——効果が出るまでの待機期間はどのくらいで、その間の出血リスクは?
  6. 3つの選択肢はすべてこの施設でできますか?それとも一部は他施設への紹介になりますか?

よくある質問

脳動静脈奇形(AVM)にはどんな症状がありますか?
多くのAVMは無症状で、別の目的で撮った検査で偶然見つかります。症状が出る場合は、初めてのけいれん発作、くり返す頭痛、あるいは場所に応じた手足の脱力や視野の異常などが代表的です。もっとも重いのは出血で、突然の激しい頭痛に、嘔吐・片側の脱力・言葉の出にくさ・意識の低下などを伴うことが典型です。これは緊急事態であり、直ちに救急に連絡してください。
未破裂の脳動静脈奇形(AVM)は、必ず治療が必要ですか?
いいえ。ARUBA試験以降は、特に治療リスクの高い高グレードのAVMは、手術せず慎重に経過観察する選択が増えています。AVMの年あたりの出血リスクと、治療そのもののリスクを天秤にかけて決めるのが一般的です。年齢は大きな要素で、若い人ほど、その年リスクが何十年ぶんも積み上がります。
脳動静脈奇形(AVM)の年あたりの出血リスクはどのくらいですか?
AVMの自然経過に関する大規模なメタ分析の一つでは、出血リスクは平均でおよそ年2%(約2.2%)で、一度でも出血したことのあるAVMでは年約4.5%まで上がります。個々のAVMは、深部の位置や深部静脈への排出などの特徴によって、これより高くも低くもなります。リスクは毎年くり返されるため、同じAVMでも若い人ほど生涯に積み上がるリスクは大きくなります。
脳動静脈奇形(AVM)の治療にはどんな選択肢がありますか?
3つの手段があり、しばしば組み合わせます。摘出術(開頭してAVMを取り除く手術。完全に取れればその場で治癒します)、定位放射線治療(ガンマナイフなど。焦点を絞った放射線で2〜3年かけて徐々にAVMを閉じる。小さい・深い病変に向く)、塞栓術(カテーテルで流入血管を詰める。多くは手術や放射線の前の準備段階として行い、単独の根治より前処置が中心)です。どの組み合わせが向くかは、AVMの大きさ・場所・排出静脈で決まります。
Spetzler-Martin分類とは何で、なぜ重要なのですか?
Spetzler-Martin分類は、AVMを大きさ、言語・運動・視覚などを司る重要な脳(eloquent area)にあるか、深部静脈へ流れるか、で点数化してI〜Vのグレードに分けるものです。グレードI・IIは一般に手術で取り除くリスクが低く、グレードIV・Vは手術リスクが高いため、定位放射線や経過観察に傾きます。このグレードが、外科医が選択肢を組み立てるときの大きな手がかりになります。
脳動静脈奇形(AVM)について、日本の脳神経外科医にオンラインで相談できますか?
はい。Japan Medical Bridge が用意しているのは、日本の脳神経外科医との1対1のビデオ相談です。お伝えするのは、あなたのような状況を日本ではどう考えるのが一般的か、という一般論であって、診断でも医療上の助言でもありません。最終的にどうするかは、あなたと主治医が決めることです。

日本の脳神経外科医と、直接話してみませんか

まさにこの決断のただ中にいるなら、時間を気にせず話せる1時間で、こんがらがった考えがずいぶん整理されることが少なくありません。あなたのような状況を日本ではどう考えるのが一般的か、ARUBAの結果をどう位置づけているか、担当医に確かめておくとよいことは何か。お相手は私自身で、2回目以降のご相談も同じ外科医が続けて担当します。

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畠中駿輔(脳神経外科医・大阪)
畠中駿輔 脳神経外科医(大阪)。術者・助手として脳神経外科手術 約1,200例、脳血管撮影・血管内治療(カテーテル)約500例。USMLE Step 1–3 合格。 医師についてもっと見る →

出典

  1. Mohr JP, Parides MK, Stapf C, et al. Medical management with or without interventional therapy for unruptured brain arteriovenous malformations (ARUBA): a multicentre, non-blinded, randomised trial. The Lancet. 2014;383(9917):614–621.
  2. Mohr JP, Overbey JR, Hartmann A, et al. Medical management with interventional therapy versus medical management alone for unruptured brain arteriovenous malformations (ARUBA): final follow-up of a multicentre, non-blinded, randomised controlled trial. The Lancet Neurology. 2020;19(7):573–581.
  3. Spetzler RF, Martin NA. A proposed grading system for arteriovenous malformations. Journal of Neurosurgery. 1986;65(4):476–483.
  4. Gross BA, Du R. Natural history of cerebral arteriovenous malformations: a meta-analysis. Journal of Neurosurgery. 2013;118(2):437–443.
  5. 日本脳卒中学会『脳卒中治療ガイドライン2021』脳動静脈奇形の項.

このページは、脳動静脈奇形(AVM)が日本の脳神経外科でおおむねどう考えられているかを、ありのままに紹介する一般的な医学情報です。あくまで判断の材料であって、あなた自身の診断や治療方針を決めるのは、この文章ではなく、画像を見られる主治医とあなた自身です。読んだことで医師・患者の関係が生まれるわけでもなく、実際の診療は施設や症例によって変わります。突然の激しい頭痛・初めてのけいれん発作・急な手足の脱力や言葉の出にくさなどが起きたときは、読むのをやめて、直ちにお住まいの地域の救急に連絡してください。